デスバレーの動く石

祟りか? 呪いか? 信仰を集める奇石・奇岩にまつわる「伝説」を探る


ピラミッドやストーンサークルに代表される、石や岩にまつわる伝説・伝承は世界各国に残っている。国土の大半を山が占める日本でもそれは同様だ。
今も残る、石や岩にまつわる不思議な伝説について見てみよう。

▼目次
29人の住職が石が転がり落ちるのと合わせて命を落とした
GHQが破壊しようとすると担当者が死ぬのはなぜ?
ついに解明された? 動く石の「謎」
頑なに移動を拒否する「石」/ゆっくりと降ってくる「石」

29人の住職が石が転がり落ちるのと合わせて命を落とした

石にまつわる不思議な伝承は日本にも多く残されている。
遠州七不思議のひとつ、「大興寺の子生まれ石」の言い伝えはその代表的なものと言えるかもしれない。

写真出典:フォト蔵

静岡県牧之原市に今も建つ大興寺は、室町時代に第8代大徹宗令によって開山されたと伝わる。
大興寺には、歴代住職の「無縫塔」がズラッと並ぶ。
無縫塔とは、主に僧侶の墓石として使われる石塔のことを指すのだが、大興寺の無縫塔は少々どころか、かなり変わった言い伝えが残っている。

大興寺を開山した大徹和尚は92歳と当時の基準で考えれば相当の長生きをした。
いよいよ大往生か……と思われた頃、和尚は不思議なことを言い出した。
「自分の死後、裏山の川の岩から、まゆ形の石が生まれるだろう。その石を、自分の身代わりとして大事にするように」
大勢の弟子に見守られながら息を引き取った大徹和尚。
入定後、弟子がいわれたとおりに川まで様子を見に行くと、そのとおり、繭型の石が河原に落ちている。
人々はその石を川から運び、和尚の墓石として大切に扱った。

不思議なのはここからだ。
代々、大興寺の和尚が死ぬときには、河原の崖から眉型の石がごろりと石が転がり落ちる。
転がり落ちた石を墓石として眠る和尚の数、実に29人。
29代にわたって、この伝説が生きているのだ。

こんな話もある。ある和尚に弟子が言った。
「和尚、和尚の石はきれいな形をしていますね」
それを聞いた和尚は冗談のつもりで「ならばお前にやろう」と話したところ、日に日にその石は岩壁から出っ張り始め、それと同時に弟子も日に日にやつれ始める。
やがて、いつものように石が転がり落ちると、その弟子も死んでしまったという。
この「大興寺の無縫塔」は全国的にも広く知られ、牧之原市の名勝に指定されている。

写真出典:フォト蔵

GHQが破壊しようとすると担当者が死ぬのはなぜ?

兵庫県西宮市から芦屋市に掛けて、南北に縦断する県道82号線。
鷲林寺町あたりの道路のど真ん中に、「夫婦岩」と呼ばれる巨石が横たわっている。
片側一車線の県道は、避けるように岩のある地点だけ分岐し、通り過ぎたらまた1本の道に戻る。
この岩がある地点付近、六甲山周辺には奇岩・巨岩が数多く残されている。
この岩も、山頂付近から転がり落ちてきたものだろう。

夫婦岩

この奇岩に関する噂の出どころは、80年前まで遡る。
1938年の阪神大水害の復興に伴って、県道拡張工事が計画された。
県道を通す際、この夫婦岩が邪魔になる。
道路を通すため、夫婦岩は爆破される予定だった。ところが、爆破前日に工事主任が休止してしまう。
数年後、「祟りなんてあるものか」とある建設会社が工事を請け負い、爆破作業にあたったが、その担当者も爆破前日に亡くなってしまった。
戦後、GHQが軍事物資の運搬のために、通行の邪魔になる夫婦岩を破壊しようとしたが、奇妙な出来事が頻発したために、結局諦めたと伝わっている。
しかし、あくまで伝承として伝わるのみで、これらの正式な記録は残されていない。
「GHQが破壊しようと試みるも祟りに遭い諦める」という筋立ては、東京・大手町のビル街に今も残る「将門の首塚」でも見られる。

人間は今も昔も合理的だ。
夫婦岩も首塚も、明らかに生活の邪魔になる位置に現在ものこっているところを考えるなら、なんらかの「出来事」が起こったと考えてもいいのではないか。その出来事が、祟りや呪いであるかどうかは別として。

ついに解明された? 動く石の「謎」

世界に目を向ければ、石や岩にまつわる不思議な伝承は数え切れないほど記録されている。
その中でももっとも有名なのが、アメリカのカリフォルニア州デスバレー国立公園内の石の謎だ。
デスバレーにはレイストラック・プラヤと呼ばれる干上がった湖跡がある。
その湖底を、大きな石が縦横無尽に移動するのだ。

デスバレーの「動く石」

原因に関しては多種多様な説がある。
月の満ち欠けを原因と考える説、地磁気が関係するのではないかと説く研究者もいる。太陽の黒点との関連性を見出した研究者もいれば、UFOによるものだと安易に考えるオカルト信者もいる。
1967年以来、この不思議な現象を研究していた科学者のシャープ博士は、風と雨が相まって石は動いていると結論づけた。
近年、この説を補強する研究結果が公表された。

2014年、アメリカの研究チームによると、石に埋め込んだGPS追跡装置、コマ撮り写真、測候所、そして山のような忍耐を駆使して、スクリップス海洋研究所のリチャード・ノリスと従弟のジェームズ・ノリスが率いる研究グループが、この謎の出来事は、凍結した雨水と微風の完璧な組み合わせによる仕業だと結論したのだ。

デスヴァレー「動く石」の謎:米国研究チームが解明

研究チームは最終的に、この乾いた地域に珍しく雨が溜まったとき、水分が凍ることで、レイストラック・プラヤの表面に巨大な氷が張る。
この氷はまるで「窓ガラス」のように機能し、やがて溶けかかって複数の破片になったとき、時速11〜16キロメートルの風速の風が吹くと、石が動き出すと結論づけた。

デスバレーの動く石の謎を解明した動画。開始約3分あたりで、実際に動く石の様子が捉えられている

頑なに移動を拒否する「石」/ゆっくりと降ってくる「石」

断固として自分の気に入った場所を動かない石の伝説も、世界に数多く残されている。オクスフォードシャー地方にある「王の石」はもっとも有名なエピソードだ。
王の石はロールライト・ストーンズと呼ばれる一群の環状列石のなかにあるが、毎年決まった日、小川に自ら移動して水を飲みに来るとの伝説がある。
この王の石を、かつてある荘園領主が動かした時の伝承が残っている。
領主が石を移動させようと、まずは1頭の馬に曳かせてみたが、頑として動かない。
次に2頭で曳かせてみてもままならず、3頭で曳かせてようやく石を撤去することに成功した。
成功したものの、領主の屋敷内で奇妙な出来事が頻発した。
気味のわるい音が聞こえたり、声が轟いたりと、ポルターガイスト現象に驚いた領主は、王の石のせいに違いないと思いたち、石を元の位置に戻すことにした。
すると、元の位置から移動させるときには3頭必要だった馬が、元に戻すときには1頭であっさりとあるべき場所に戻したという。

アイルランドのケリー地方にも、「場所を移しても戻ってくる」と伝わる教会の石がある。
そのため、教会のかたわらに並ぶ「母親石」は、崇拝の対象になっている。
むやみに場所を移動させると災いが起こると信じられ、さらにこの石は「子どもを生む」と広く信じられている。
石が石を生むというのは、先述の「子生まれ石」にも通じるエピソードだ。

アイルランドの「母親石」

1944年10月9日付の「サンデー・ピクトリアル」紙は、イングランド東部のエセックス地方の小さな村で起こった怪奇現象を紹介している。
この村で、道路拡張工事が行われた。
その工事にあたって、大きな丸石をアメリカ軍のブルドーザーで撤去した。
しかしこの丸石にはいわくがあった。
以前、この村にはスラップファゴット・グリーンと呼ばれる魔女の悪霊が取り憑いていた。
丸石はこの悪霊を押さえ、封じ込める役割を果たしていた。その石を撤去してしまったのだ。
悪霊が野放しにされたからなのだろうか、村全体がポルターガイスト現象に襲われた。
誰も叩かないのに教会の鐘が鳴る。
教会の時計がでたらめな時間に時を打ち出す。
柵で囲った牧草地から羊が忽然と姿を消す。
農機具や棒などが辺りに放り投げられる。
以前には石などなかった場所に、大きな石が現れる。

これらの出来事に閉口した村人たちは、国内で心霊研究家として名高いハリー・プライスを呼び寄せ相談した。
プライスは、「誰もが石を動かしたから災いが起こったと信じているのだから、以前とそっくりそのまま同じ状態に戻すのが最良の策だ」とアドバイスした。
その言葉に従って、1944年10月11日の深夜、丸石は元の場所に戻された。以後、村を襲った怪異は姿を消した。

イギリスの心霊現象研究家、ハリー・プライス(1881〜1948)

このエピソードは、先に紹介した「夫婦石」「将門の首塚」の内容に酷似している。
なんらかの呪い、祟り、悪霊や悪魔を封じ込めるために、古来から「石」「岩」は東西を問わず使われていることが分かる。

空から物体が降ってくる「ファフロツキーズ現象」を思わせる怪異も記録に残っている。
1843年1月、フランスのイゼール地方で、ふたりの少女が落ち葉を拾っていると、さまざまな色の石が「ゆっくりと」降ってきた。
ふたりは驚いて両親を呼びに行き、その場所に連れ戻った。
するとまた石が落ちてきた。
牧師や医者など、信頼に足る証人たちを呼び集めたが、やはり彼らの目の前d絵色とりどりの石が「ゆっくりと」降ってきたという。
この現象は少女たちがいるときにしか起こらなかったが、数日後にパッタリと止んだ。(1843年1月18日付「ザ・タイムズ」紙)

「畑に石の山を築いたのは誰だ」と見出しがついた記事が、1975年5月4日付の「サンデー・エクスプレス」紙に掲載されたこともある。
事件のあらましはこうだ。
イギリスのグロスターシャー地方のある大麦畑で、畑の所有者ピーター・リビャット氏が、大量の小石が積み上がった山を見つける。
「犯人が人間なら、積み上げるのに一生掛かるだろうの量」(リビャット氏の証言)の小石、迷信のたぐいを信じなかったリビャット氏は、これはきっと、鳥か動物の仕業に違いないと考え、その筋の専門家に問い合わせた。
動物博物館の学芸員は「野鳥には不可能だ」ときっぱりと否定した。
ロンドンにある大英博物館からはこんな手紙が届いた。
「イギリスで、これだけの量の小石を積み上げることができる唯一の哺乳類は、『ボーイスカウト』だけ」。
これに対して、ボーイスカウト教会は、「ボーイスカウトはこの件の容疑者の対象から外していただきたい」との公式見解を出した。
結局、原因はわからないまま、この異常事態に困惑しただけだったという。