キリストや聖母マリアをかたどった像や絵から、血や涙が流れ出すことがある。古くは紀元前から確認されており、21世紀を迎えた今日でもたびたび同様の現象が報じられている。
▼目次
古代から現代にいたるまで記録に残る「聖像の奇跡」
教皇庁も認めた秋田県「聖体奉仕会」マリア像の奇跡
涙や血を流す聖像の奇跡は現在も報告されている
古代から現代にいたるまで記録に残る「聖像の奇跡」
有史以来、血や汗、涙を流す偶像や画像に関する逸話は枚挙にいとまがない。
これらの現象の多くは、歴史的な重大事の前兆とみなされてきた。
古くは紀元前330年ごろ、古代ギリシャのアルゲアス朝マケドニア王国のアレクサンドロス3世(アレクサンダー大王)が、東方への大遠征に出発する直前、ギリシア神話に登場する吟遊詩人オルフェウスの木像が大粒の汗を流し始めた。
アレクサンダー大王側近の占い師は「この現象は、未来の歴史家が大王の偉業を讃えようとしていることの象徴だ」と説明、周囲を納得させている。
この発汗現象は、数日間続いた後に止んだという。
他にも記録が残っている。
古代ローマの歴史家、ティトゥス・リウィウスも、アポロ像が昼夜を分かたず3日間にわたって涙を流し続けたと伝えている。
1527年のローマ大攻略の直前、キリストの聖像が大量の涙を流し、修道院に幽閉されていた神官たちが、交代で休まず涙を拭い続けた。
1719年、シシリー島シラクサにある聖ルカ像も、涙を流している。
血や涙を流すのは、聖像だけではない。
帝政ローマ時代の詩人、プーブリウス・オウィディウス・ナーソーは、地域で崇められていた神聖な樹が、不信心者によって切り倒されたとき、鮮血に見まごうような真っ赤な液体が、幹からほとばしってきたのを見たと書き記している。
これらの記述はすべてでたらめなのだろうか。
だが、同様の現象は近代に入っても数多くの人々が目撃している。
20世紀後半、アメリカのペンシルヴァニア州エディストーンで、血を流すキリスト像について報道された。
1968年にはブラジルの港町ポルト・ダス・カイシャスでは、17世紀に作られたキリストの木像から、定期的に血が流れ出すと話題となった。この血を怪我に塗るとたちどころに治ると話題になった。
このケースでは、科学的な調査が行われたが、その結果、本物の血であることが判明したが、なんの血なのかまではわからずじまいだった。
この現象は数年間にわたって続いたが、最後までどこから血が流れてくるのか、突き止められなかった。
1972年にはシシリー島シラクサで、個人所蔵の石灰岩でできたキリストの十字架像から、突然血が流れ出した。
噂を聞きつけた巡礼者田地が大挙して押しかけ、現地は大混乱。
シラクサの協会は、公式に「この現象を宗教的奇跡とは認めることはできない」とアナウンスし、事態の収拾を図った。
血は、十字架像の胸部から流れ出ている。その場所は、キリストが磔刑に処された際、槍による傷を受けた場所とされている。
教皇庁も認めた秋田県「聖体奉仕会」マリア像の奇跡
秋田県秋田市にあるカトリックの在俗修道会「聖体奉仕会」では、1973年から聖母マリアが修道女の前に現れ、1975年から1981年にかけて、101回にわたって同会の聖母マリア像が涙を流している。
これら一連の奇跡は、1984年に当時のカトリック新潟教区長であった伊藤庄治郎司教が「奇跡としての超自然性を否定できない」との公式声明を出した。
この声明によって、一連の現象が詐欺的、邪教的なものではないことが認められた。
この声明は、1988年に教皇庁の教理聖省長官のラッツィンガー枢機卿(後の教皇ベネディクト16世)によって正式に受理されている。
この奇跡の発端は、1973年に同会所属の修道女の手の平に、出血を伴う十字架状の傷が現れたことから始まった。
突如、信者の体に、キリストが磔刑に処された際についた傷と同じ場所に傷が現れることを「聖痕現象」という。カトリック教会では奇跡の顕現と見なされている。
この聖痕現象をきっかけに、同会のマリア像が涙を流す、マリアが現れ予言を残すといった出来事が数年にわたって続く。
一連の奇跡の体験者は修道女のS氏。
もともと体が弱く、19歳のときに盲腸の手術の失敗から半身不随に。入院先の看護師が熱心なカトリック教徒だったことから、S氏も入信する。
その後、長崎の修道院で生活を送るも、体調不良が再発。10日間にわたって意識不明の状態が続く。
その際に、病を癒す奇跡の水とされる「ルルドの泉の水」を口に含ませたところ意識が戻り、麻痺していた手足も動くようになるという経験をする。
秋田県に移って迎えた1973年、進行性の難聴を患い、聴力を失ってしまう。
1973年6月12日、当時38歳となっていたS氏が、ひとりで祭壇の木彫りの聖母マリア像に手を合わせていると、突然、マリア像から強い光が発せられた。
S氏はその場でひれ伏したという。この事件が奇跡の始まりだった。
S氏の左の手の平に、十字架状の聖痕が現れたのはこの直後のことだ。
1973年7月6日の午前3時、左手の傷の痛みに耐えていると、眼前に天使が現れた。導かれるように祭壇の聖母マリア像前に向かう。
天使は「マリア様のほうがあなたよりも苦しんでいる」と、言葉ではなく心に響くメッセージを送ってきた。
マリア像の手にも傷があると天使から聞いたS氏は、その傷を見ようとマリア像に近づくと、またしても強い光がS氏を包んだ。
驚き、マリア像にひれ伏すS氏の心に、得も言われぬ美しい声が響いてきたという。
「私の娘よ、私の修練女よ、すべてを捨ててよく従ってくれました。耳の不自由は苦しいですか。きっと治りますよ。忍耐して下さい。最後の試練ですよ。手の傷は痛みますか。人々の罪の償いのために祈って下さい。ここの一人ひとりが、私のかけがえのない娘です。聖体奉仕会の祈りを心して祈っていますか。さあ一緒に祈りましょう。…(聖体奉仕会の祈りを一緒に唱える。)…
教皇、司教、司祭のためにたくさん祈って下さい。あなたは、洗礼を受けてから今日まで、教皇、司教、司祭のために祈りを忘れないで、よく唱えてくれましたね。これからもたくさん、たくさん、唱えて下さい。今日のことをあなたの長上に話して、長上のおっしゃるままに従って下さい。あなたの長上は、いま熱心に祈りを求めていますよ」
マリアからのメッセージは、以後、1973年8月3日、1973年10月3日と、全3回にわたってS氏に届けられている。
メッセージでは、人類に対する警告がなされており、3度目のお告げでは「もし人類が悔い改めないなら、御父は全人類の上に大いなる罰を下そうとしておられます」「火が天から下り、その災いによって人類の多くの人々が死ぬでしょう」と予言している。
聖母マリア像が初めて涙を流したのは、1975年1月4日午前9時30分のことだった。この現象は1981年9月15日午後2時に起こった101回目まで続く。
もっとも多く涙を流したのは1979年。全体の7割以上を占める75回の現象がこの歳に起きている。その間、多くの人々が実際に現象を目の当たりにした。
ときに、聖母マリア像の手の平から血のようなものが付いているのも目撃されている。
後年、秋田大学医学部がこの聖母マリア像から流れた涙と血の成分分析を行っている。涙の成分を分析した結果、紛れもなく人間の涙で血液型はAB型。血液はB型と報告されている。
涙や血を流す聖像の奇跡は現在も報告されている
世界で観測されたこれらの奇跡の一端を、もう少し紹介しよう。
1920年8月にはアイルランド南部ティペレアリ州テンプルモアでのエピソードだ。
奇跡の始まりは16歳の少年ジェイムズ・ウォルシュが持っていた宗教彫刻や宗教画のすべてから突然血が流れ出した。
この少年が寄宿先の主人の姉、メイハー夫人の家を訪問すると、少年が帰宅後、メイハー夫人の家の聖像から血を流しているのが見つかった。
この噂を聞きつけた信者たちが、ひと目見ようとメイハー夫人の家に数カ月にわたって押しかけたが、その数は数万人に上ったという。
この奇跡は地元紙「ティペラリー・スター」が連日報道している。
奇跡はこれだけにとどまらなかった。
聖地となった部屋の床に、知らぬ間にお椀型の窪みが出来ており、そこに水が溜まっていた。
巡礼者と化した見物人が、次から次へと水を掬って帰ったが、減った分だけすぐに水は溜まり、涸れることはなかった。
にもかかわらず、水はあふれることもなく、地下水脈が見つかることもなかった。
まるで、聖地に起こる奇跡の一つ「聖泉現象」を思い起こさせる。
1955年10月10日、イギリスのニューキャッスル市ウォルカーに住むテレサ・テイラー夫人は、所蔵の石膏製の聖母像前で祈りを捧げていた。
すると、聖母の左目が開き、涙が溢れ始めたと、地元紙の記録が残っている。
また、ロンドン市内のアルフレッド・ボルトン氏が所有する40センチの十字架像が、1966年5月から6月にかけて、30回以上、涙を流したとの記録もある。
この現象は、科学者がキリスト像を丹念に調べ上げたが、「原因がわからない。困惑するばかりだ」と述べたと、「ニュース・オブ・ザ・ワールド」紙の同年6月24日号で報じている。
同様の現象は21世紀を迎えた今日に至っても世界各国で確認されている。
2005年12月1日には、アメリカのカリフォルニア州サクラメント市内の協会にある聖母マリア像の目から血が流れ出したと、ロイターが報じている。
2014年3月5日、ロシアとウクライナにある複数の教会で、聖像が涙を流しているのが発見された。
この事件を報じた「beforeitsnews.com」は、「災いの前兆ではないか」「これからロシアとウクライナに苦難の時代が来るのではないか」と伝えている。
2016年5月には、アメリカのカリフォルニア州フレズノの一般家屋に置かれていた聖母マリア像が涙を流したと、複数のメディアが報じた。
また、2017年4月にも、アルゼンチンの聖母マリア像から血の涙が流れ出したと、現地ラジオ局が報道したと「ミラー」紙が報じている。
これら一連の記録は、すべて妄信的な信者たちによるでっち上げなのだろうか。
すべてが真実とは言えずとも、一部の現象は「真の奇跡」なのだろうか。
一部でも真実の奇跡があるのだとすれば、この世に神は存在することになる。
信仰無きこの時代、ひょっとすると、そう信じられたほうが幸せなのかもしれない。