GWに観ておきたいおすすめホラー

AmazonPrimeで観られる後悔しないジャパニーズ・ホラー映画4選【2020年5月版】


AmazonPrimeVideoには、何度観ても楽しめる、傑作ジャパニーズ・ホラー作品が登録されている。自宅待機を余儀なくされている切ない2020年のゴールデンウィークだが、飲み物とおつまみを用意して、じっくりゆっくり、Jホラーの名作を楽しむのも悪くないだろう。
AmazonPrimeで観られる「怪奇蒐集者」シリーズのおすすめに続いて、傑作ホラー映画をご紹介しよう。

▼目次
「呪怨」 観るべきはビデオオリジナル版の2本でいい
「残穢」 乾いた質感で新たなJホラーの世界を切り開いた
「リング」 ジャパニーズ・ホラーの原点にして最高傑作
「仄暗い水の底から」 全編通して湿度100%の傑作ホラー
まとめと現代ジャパニーズ・ホラー考

「呪怨」 観るべきはビデオオリジナル版の2本でいい

呪怨 オリジナル版
監督:清水崇
出演:三輪明日美、三輪ひとみ、栗山千明 他
2000年オリジナルビデオ作品/劇場未公開

○あらすじ
小学校教師の小林俊介は学校に来ない生徒・佐伯俊雄の家を訪ねる。佐伯家には俊雄しかいなかった。佐伯家は異常なくらいに散らかっており、何やらただならぬ気配が漂っていた。俊介は俊雄と一緒に彼の母・伽椰子の帰りを待つことにするが……。

「リング」の貞子と並んで、ジャパニーズ・ホラーの双璧をなすヒロイン、伽椰子のデビュー作。
同名シリーズは、劇場版、続編、スピンオフ作品とこのあと続々制作されるが、オカルト・ジャンキーが楽しめるのは、この「ビデオ版」(1と2の2本)のみ。
他の作品は一切見なくていい! と断言する(おいおい大丈夫か)。

どっぷりホラーを楽しみたいなら「呪怨」ビデオ版 (C)東映ビデオ

皮肉なことに、本作が成功した秘密は、凝ったセットが組めない、有名な俳優を起用できない、質の良いビデオフィルムを使えないといった、「低予算」にある。
豪華なセットが組めなかったことで、リアリティあふれる映像に仕上がり、演技力はあってもそれほど名の売れていない俳優を起用したことで、まるで隣の家に住む近所の人誰かが体験した話のような現実感を生み、安っぽい映像になったからこそ、ジャパニーズ・ホラー特有の湿った質感が全編を通して表現される結果になった。

とはいえ、低予算で作ればどんなホラーも名作になるのかといえば、そんなはずはない。
すべては、演出・脚本を担当した清水崇氏の手腕によるものだ。
彼の演出センスに内在している「恐怖」と「お笑い」のセンスが、本作の中では絶妙なバランスで同居している。
恐怖と笑い、まったく逆方向のベクトルでありながら、「緊張と緩和」によって効果が生まれる点など、両者の共通項は実に多い。
たとえば伽椰子の奇妙な動き。彼女が出てくるシーンはどれも生理的な嫌悪感を覚えるが、じっくり見ると、あれはギャグシーンでもある。そのバランスの塩梅が実に上手い。俊雄の存在・行動も同様だ。
「あー、暑くなってきたし、休みだし、ホラー映画でも見るか」というときには、まずはこれがおすすめだ。

これは完全に個人的な感想ですが、藤井かほりの美しさが尋常じゃないです。惚れる。

「残穢」 乾いた質感で新たなJホラーの世界を切り開いた

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―
監督:中村義洋
主演:竹内結子、橋本愛、坂口健太郎 他
2016年公開

○あらすじ
読者の女子大生から「今住んでいる部屋で、奇妙な音がする」という手紙を受け取ったミステリー小説家が、二人で異変を調査するうちに驚くべき真実が浮かび上がってくるさまを描く。

小野不由美が2012年に発表した同名小説を、中村義洋監督が映画化した。
作者の小野不由美を連想させる作家「私」が、東京郊外のマンションで起こる怪異を、丹念に追っていくモキュメンタリー風の一作となっている。
原作内では、実在の作家である平山夢明や福澤徹三が登場、怪談としてのリアリティに華を添えているが、映像化された本作ではそれぞれ平岡芳明、三澤徹夫と別名のキャラクターに立ち位置を変えている。

実話怪談さながらのリアリティが魅力の一作
(C)2016「残穢-住んではいけない部屋-」製作委員会

本作最大の魅力は、まるで実話怪談を聞いているかのように、小さな怪異が連鎖し、それぞれ関連しあった怪異が大きな一つの流れへと収斂されていく、そのダイナミズムにある。
映画を観ている視聴者は、登場人物とともに心霊スポットに足を踏み入れ、起こっている不思議な出来事の謎を解いていくかのような気分を味わえる。

この一文を書いている筆者に至っては、すべてとは言わずとも、物語で描かれているエピソードのいくつかは、実際に誰か体験者がいるのではないかと疑っているほどだ。

竹内結子と橋本愛の演技も素晴らしい。
主役の「私」を演じる竹内結子が、終始低血圧気味で、ナレーションなどが聞こえづらいきらいもあるが、それもまた、「リング」や「呪怨」とは異なる、乾いた恐怖を描いた本作の魅力・演出の一部になっている。怪異に巻き込まれる女子大生を演じる橋本愛の可憐さもたまらない。

「ほんとにあった! 呪いのビデオ」などの、「実話」を謳っている実録シリーズが、評価の俎上に上げるのも憚られる、目も当てられないほどひどい出来栄えで見るに堪えない中、実話怪談により近い、クオリティの高いJホラーを楽しみたいなら、この作品以外にない。

同じ小野不由美原作の「鬼談百景」も、映像化されAmazonPrimeで公開されている。こちらは百物語の体裁で紡がれるホラーオムニバス。「残穢」を十分堪能したら、合わせてご覧いただきたい。

「リング」 ジャパニーズ・ホラーの原点にして最高傑作

リング
監督:中田秀夫
出演:松嶋菜々子、真田広之、 中谷美紀 他
1998年公開

○あらすじ
ちまたに勃発する原因不明の突然死。呪いが込められたビデオテープの存在の噂は、都市の人々の間に急速に広まっていった。浅川玲子(松嶋菜々子)は、ある事件を追いかけるうちにそのビデオテープを観てしまう。そのビデオには観たものを7日間の期間で確実に死に追い込むという、恐怖の呪縛が潜んでいた。玲子は別れた夫の高山竜司(真田広之)に相談するが、彼もまたそのビデオを観てしまう。息詰まるような限られた時間の中で、彼らは生き残りをかけてその謎に挑む。

Jホラーの原点にして最高傑作。日本のホラー映画最高のヒロイン、貞子を元凶とする呪いの連鎖とその呪いに立ち向かう主人公たちを描く。
シリーズ第2作となる「らせん」もよくできた1作だが、「リング2」以降のスピンオフ作品は、観る必要はないだろう。特に「貞子3D」などに至っては、ただのギャグ作品だ。

主役ふたりの美しさ、強さが見どころの一つ
1998「リング」「らせん」製作委員会

本作の最大の魅力は、鈴木光司が生み出した貞子というキャラクターであることは論を俟たないが、ストーリー全体を構成するプロットとアイディアが素晴らしい。
物語の始まりから終わりまで、適度に配された伏線を適切に回収しながら、一瞬たりとも視聴者を飽きさせることなく、エンディングまで導いていく。
観ているこっちは、あれよあれよと言う間もなく、合間合間で貞子の恐怖におののきながら、大団円まで連れて行かれる。

キャストも素晴らしい。主人公のひとり、浅川玲子を演じる松嶋菜々子の美しさと言ったら。もうひとりの主人公、高山竜司を演じる真田広之のかっこよさと言ったら。
シナリオ、演出、キャスト。それぞれのパーツが絶妙のバランスで噛み合い、相乗効果を生み出した結果、最高傑作が誕生した。
劇場公開から20年経ったいまでも、古さを感じない。
さすがに「ビデオテープ」は遠い昔の記憶になってしまったが。

「仄暗い水の底から」 全編通して湿度100%の傑作ホラー

仄暗い水の底から
監督:中田秀夫
出演:黒木瞳、菅野莉央、小口美澪 他
2002年公開

○あらすじ
松原淑美は自分の幼い日々を思い出す。それは幼稚園のころ、それぞれの親が迎えにくるなか、自分だけ取り残される姿。淑美の母は自分勝手だった。淑美は家庭を大切にし、子を思う母になろうと決心している。しかし現実には夫とうまく行かず離婚調停中。だが頑なに子供を思う気持ちだけは持っている。親権を主張し、自立するため新居探しを始め、淑美と娘の郁子は「なにか」を感じるマンションに行き当たる。室内の湿気、水道水の不気味さ、雨漏り、子供の足音。二人で住みはじめたある日、郁子が屋上で赤い子供用のバックを見つけた。

監督・中田秀夫、原作・鈴木光司のコンビでの映画化としては、前出の「リング」がある。この2人が組めば、傑作間違いなしというわけではないが(「リング2」など)、本作は十分楽しめる1作になっている。
薄暗い、気味のわるいマンションを舞台に、母娘が怪異に立ち向かう設定は、「リング」に似ていなくもない。

母娘の愛情が全編通してのキーワード
(C)2001 角川書店 日本テレビ バップ 日活 オフィスオーガスタ オズ

本作の特徴は、タイトルにも含まれる「水」が象徴するように、全体に統一して流れる湿度の高さ。どのシーンを切り取っても、ジメジメ、あるいはベタベタした質感の映像、印象が肌にまとわりつく。

黒木瞳演じる主人公の松原淑美は、「リング」の浅川玲子ほど強くない。
自分と娘に襲いかかってくる怪異に対して、常に混乱しながら翻弄される。
しかし、これがまともな人間の反応なのだ。
「リング」の浅川玲子は強すぎる。
得体のしれない怪異に巻き込まれたとき、人間は混乱するか、そうでなければ呆然とするかだ。理路整然と正しい判断を下せる人間などほとんどいない。
本作が多くの映画ファンに支持された理由の一つは、主人公に感情移入しやすかったからだろう。
混乱する母親に対して、徹頭徹尾可憐で儚げな佇まいを見せた、娘役の菅野莉央の演技も見事だった。

本作のオチ。怖さよりも哀しさが先立つエンディングではあるが、実際に同様の事件が過去に日本でも起こっていることを想像すると、また違った恐ろしさが浮かび上がってくる。

まとめと現代ジャパニーズ・ホラー考

「実話」にこだわる筆者にとって、フィクションとハッキリ分かっている状況で、物語を2時間程度ボーッと見続けるというのは、基本的には苦痛以外の何物でもない。
そんななかでも、今回挙げた4作品は、集中力が途切れることなく楽しめる、名作中の名作だ。
だからこそ、わざわざここで挙げなくとも「知ってるよ」というタイトルばかりが並んだが、名作は、時間を空けて何度観ても新しい発見がある。
まとまった時間がある今だからこそ、もう一度見直してみてはいかがだろうか。

しかし「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズと、これに類するパクリタイトル群のつまらなさといったらなんだろう。今回の原稿を上げるにあたって数分眺めてみたが、オカルト・ジャンキーだからこそ、本気で頭にくる。作り手が本気で制作に取り組んでいるとは思えない。

以前、「ほんとにあった!〜」シリーズをリリースしているビデオメーカー、ブロードウェイの担当者に話を聞いたことがある。
本シリーズは、若手映像作家の練習台になっており、ここで腕を磨き、表現方法に光るものがある監督は、映画監督やドラマの演出にスカウトされる。
その恐怖の表現方法は監督によってさまざまで、上手い・下手が歴然としてあるという。
練習台でも構わないから、せめて視聴者の気持ちを冷めさせない、オカルト・ジャンキーがそれなりに納得するレベルの映像を仕上げていただきたい。
余談だが、「たまに、本物の幽霊らしきものが写っている映像が投稿される。送られてきたら、一応確認しないといけないので、その仕事が怖い」と、その担当者は言っていた。
個人的には、その仕事、オレがやりたい。

■おまけ
AmazonPrimeVideoにはない、筆者おすすめのホラー映画、ドラマ
・「ノロイ」
・「女優霊」
・「ダムド・ファイル」