実話怪談ジャンキーなら当然聴いているだろう「北野誠の茶屋町怪談」。YouTubeにアップされた公式動画の、総再生数は500万回を超える日本を代表する実話怪談ラジオ番組だ。
本シリーズの魅力はなんと言っても質の高い実話怪談。
日本最高峰の語り手による極上の怪談をどっぷりと楽しめる。
▼目次
北野誠の茶屋町怪談2016
北野誠の茶屋町怪談 来て後悔 聴いて後悔
北野誠の茶屋町怪談2017
北野誠の茶屋町怪談2018夏
北野誠の茶屋町怪談2018冬
北野誠の茶屋町怪談2019夏
北野誠の茶屋町怪談2019冬
「北野誠の茶屋町怪談2016」
日本全国の怪談ジャンキーにとって不幸なのは、初回の「2015年版」をMBSラジオが公開していないために聴けないことだ。
YouTubeに公式に公開されている音源は、この「2016年版」からとなる。
出演:北野誠、中山市朗、松原タニシ、田中俊行、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
この2016年まで、制作している毎日放送自体も、番組にそれほど大きな期待を掛けていなかったのではないか。
本作「2016年版」から、ラジオでの放送後、公式にYouTubeに音源をアップ。ここから人気に火がついた。2020年5月現在、2016年版は73万回以上の再生回数を誇っている。
まずはこの回から聴くとよいだろう。
ラジオ局からの過剰な期待がかかっていない分、出演者に過不足がなく、最高のバランスのフォーメーションを組んでいる。
さらに、出演者自身もリラックスして語っているため、適度な緊張感の中での怪談を楽しめる。
出演者が最高の環境で話をできるのは、司会である北野誠氏の「回し能力」によるところが大きい。
今さら説明するまでもないが、北野氏はオカルトや怪談への造詣が深い。
決して豊富な知識を持ち合わせているわけではないが、語り手の怪談に丁度いい絡みを施すことで、ピリリと感じるスパイスを与える。
巷にあふれる素人の怪談会や、ひとり語りの怪談スタイルとは一線を画したクオリティに、この「茶屋町怪談」が達しているのは、そのためだ。もちろん、出演者のネタも素晴らしいことは言うまでもない。
また、オカルトアナウンサーの二つ名を持つ、玉巻映美アナのキャラクターも欠かせない要素だ。
「2016年版」の聴きどころは2つ。
中山市朗氏の「Bくんの話」と田中俊行氏の「留守番電話の音声」だろう。
特に田中氏の怪談では、実際に怪異を起こした留守番電話に残された不可思議な音声を、そのまま流している。ゾッとする恐怖を感じることうけあいだ。
「北野誠の茶屋町怪談 来て後悔 聴いて後悔」
「2016年版」をYouTubeに公開したら、予想外の反響が来たことに驚いたのだろう。急遽、公開イベントを開催。その模様を収録して放送されたスペシャル版がこの回だ。
前回からわずか1ヵ月後の2016年9月にオンエアされている。
出演:北野誠、中山市朗、三木大雲、松原タニシ、田中俊行、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
前回のメンバーに加えて、怪談和尚こと三木大雲氏が加わる。
わずかな期間しか空いていないからだろうか、中山市朗氏、松原タニシ氏ともに前回と比べると話があまり面白くない。
そのパワーダウンを補っているのが、この三木氏だ。
語っているのは、本屋で出会った「死の匂い」を発する男性の話。
三木氏は多くの場所でこの話をしているが、このバージョンが過不足なくまとまっていて、聴きやすく感じる。
「北野誠の茶屋町怪談2017」
3年連続の放送、夏の風物詩となった「茶屋町怪談」の2017年版。
「2016年版」の好評を受けて、この回から2時間に放送時間が延びている。
出演:北野誠、中山市朗、三木大雲、松原タニシ、渡辺裕薫、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
都合がつかなかったのか、田中俊行氏が抜けて、幻の「2015年版」に参加していたという、渡辺裕薫氏が加わっている。
この渡辺氏、松竹芸能所属の芸人だけあって発声が素晴らしく、映像がなくても大変聞きやすい。
ここでは持ち主に不幸を招く不思議な絵について語っている。
古来から伝わっているような、オーソドックな怪談の一類型ではあるが、現代にも同様の怪異は起こりうるのかと、オカルトの普遍性、連続性について考えさせられる。
内容に関しては素晴らしい回ではあるが、この回のみ、CM部分でカットし分割された全4本がそれぞれYouTubeにアップされている。
2時間を一気に聴かせるのは難しいと考えた、ユーザー思いの施策だろうと想像されるのだが、これがびっくりするほど聴きづらい。
翌年からまた1本丸ごとのアップに戻ったところを見るに、いくつか批判も来たのだろう。
聴きづらいが、ここはスタッフの心情を忖度し、グッと我慢して質の高い実話怪談を楽しみたい。
「北野誠の茶屋町怪談2018夏」
「2017年版」から「2018年版」の間に、スピンオフ番組として「茶屋町怪談 若手怪談師 GP 〜新鎌(ニューカマー)夜(ナイト)〜」が放送されたが、こちらは1分たりとも聴く必要はない。
このスピンオフ番組を勝ち上がった若手をひとり、正式放送である「2018年版」に登場させるという試みだったが、人に聴かせる技量とネタを持った語り手はひとりもいない。
正統派の実話怪談番組が、彼らのような「素人以下」の出演者にスポットを当てたことは重ね重ね残念だった。
ちなみに、勝ち上がって「2018年版」への出場権を勝ち取ったのはぁみ氏だったが、彼については、今後も一切当サイトで触れるつもりはない。
出演:北野誠、中山市朗、三木大雲、松原タニシ、田中俊行、ぁみ、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
「2017年版」が2時間だったのに対し、この回では90分に短縮された。
120分はもたなかったという反省からかもしれない。
松原タニシ氏、三木大雲氏、中山市朗氏と、そうそうたる面々の怪談はさすがの一言。安心して楽しめる。
大トリを務めるのは、オカルト・コレクターこと田中俊行氏。
結婚式で撮影された壮絶な心霊写真を紹介、写真にまつわるエピソードを話している。
写真はすべてYouTube内で紹介されている。
特に2枚目左上に写っている白い生首の写真はぜひ見てほしい。最高に気持ち悪い(褒め言葉)。
写真をメンバーで確認しながら、中山氏や三木氏らが続々と新たな発見をするのもエキサイティングだ。オカルトアナウンサー、玉巻氏のリアクションもいい。
安心しておすすめできる回だ。
「北野誠の茶屋町怪談2018冬」
YouTubeで公開されている「2016年版」以降、(スピンオフ以外は)ほぼすべての怪談が楽しめる本シリーズだが、この回は残念ながら聴く必要はない。
出演:北野誠、三木大雲、松原タニシ、岡山祐児、DJたらちゃん、辻沙穂里(毎日放送アナウンサー)
この回がパワーダウンしてしまっている理由、それは中山市朗氏の不在も関係しているのだろうが、岡山祐児氏、DJたらちゃん氏の怪談が、まったくもって聞くに堪えない。
岡山氏は呪われた人形を携えて登場するのだが、海千山千の北野誠氏を前に満足に話すことができず、ほとんど北野氏の独壇場となっている。
DJたらちゃん氏は、一所懸命話しているのは分かるのだが、怪談の内容を事前に構成していないのは明白で、なにを話しているのかさっぱりわからない。
さらに失敗は続く。
90分を埋めるネタがなかったのだろう。途中で、一般から公募した、自分語りの怪談音声が挿入される。これもまた聞くに堪えない。
そもそも応募してきた怪談の数も少なかったのではなかろうか、採用となって放送されたネタがことごとくつまらない。
加えて、話しているのはド素人であるため、語り口もネタの構成もへったくれもなにもない。ただただ、素人が好き勝手に話しているのを聞かされる時間は苦痛でしかない。
YouTubeなどで、一般の方々が実話怪談を語る動画や、自分でネタを集めることができない人は他人の著書に掲載されている怪談をただ朗読する動画などが溢れているが、「語りの技術」というのは、素人がなんとなく話して成立するほど甘いものではない。
語る内容が実話怪談ともなればなおさらだ。
怪異の経緯、背景の説明、人物の描写を正確に伝えながらも、「恐怖」という形のない概念を形にする技量が求められる。
素人が自己満足でYouTubeで公開するのはともかく、公共の電波を使って素人の語りを放送に乗せるべきではないことが、皮肉にもよく分かる回となっている。
「北野誠の茶屋町怪談2019夏」
玉巻映美アナウンサーが「2018年版」以来の復帰。放送内で北野誠氏は「2年ぶり」と語っているが、1年ぶりだ。
本シリーズでは北野氏が縦横無尽に場を支配する分、女性アシスタントは余計なアクションを起こすと邪魔になる。
かといって、なんのリアクションもできなければその場にいる必要はない。
玉巻アナの、適度なリアクションと脱線しそうになると素早く手を差し伸べ、場を正しいレールに戻す仕切りの能力が素晴らしい。
「2018年冬版」がシリーズ最低のクオリティとなったのは、玉巻アナの不在も大きかった。
出演:北野誠、中山市朗、三木大雲、松原タニシ、川奈まり子、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
今回からふたたび中山市朗氏が帰ってきた。
関西オカルト界のドン、中山氏の存在感は圧倒的だ。北野氏を中心に、出演者とアナウンサーの絶妙なバランスが、本シリーズを成功に導いている。
その意味で、「2016年版」が図らずも最高のバランスになっていることが分かるのも面白い。
初参加の川奈まり子氏も健闘している。
千葉県内の某霊園にまつわる怪異を語るのだが、お世辞にも決して優れた語り口ではない。
だが、実話怪談に対する真摯な姿勢が見て取れて、好感が持てる。
この回は、ラジオでの放送と同時にYouTubeで映像も(一部だが)生配信された。
そのため、前回まではYouTubeでも写真+音声で公開されていたが、この回は全編動画で楽しめる。
収録中、突然ポスターが剥がれ落ちる、入り込むはずのないハエがスタジオ内に現れるといったアクシデントも余さず記録されており、実話怪談にプラスアルファでおまけが付いてきたような、オトクな気分も味わえる。
ただ1点、素人から公募した素人による怪談コーナーは今回もある。
このパートはすっ飛ばしていい。
「北野誠の茶屋町怪談2019冬」
関西で伝説的な人気を誇った北野誠氏のラジオ番組「誠のサイキック青年団」で、北野氏とタッグを組んでいた竹内義和氏が電撃参戦した。
前回に引き続き、動画で全編収録されており、ここまで来るとリアルタイムにラジオで音声だけ聴くリスナーは物足りなくなってしまうのではと、いらぬ心配をしてしまうほど充実した環境で楽しめる。
出演:北野誠、中山市朗、三木大雲、松原タニシ、竹内義和、玉巻映美(毎日放送アナウンサー)
松原タニシ氏が切り込んで、三木大雲氏が安定の語り口で恐怖を語り、中山市朗氏が他では聴けない奇妙な話をお届けする。
まるで、常勝野球チームの上位打線のように、全員が持ち場で大活躍、ヒヤリとする瞬間は一度もない。
助っ人外国人選手としてやってきた、竹内義和氏も負けてはいない。
竹内氏ならではの淡々とした語り口で、ある家にまつわる怪異について語る。
素人の質の低い投稿怪談もようやくなくなった。
全編通して楽しめる回と言えるだろう。
公式サイトのアナウンスによると、4月15日に本シリーズの新作の収録が予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から、中止となったようだ。
残念だが、致し方ない。
次回以降、また更新を楽しみに待つことにしよう。