2020年4月28日、アメリカの国防総省が正式に「未確認飛行物体の映像だ」と認めた3本の動画が公開され話題を集めたが、遡ること40年前、「正式にイギリス国防省が『UFOとの接近遭遇である』と認めた事件がある。
「イギリスのロズウェル事件」とも呼ばれる、イギリスでもっとも有名なUFO事件は、今なお新たな謎や証言が発掘されている。
▼目次
事件から40年が経過しても発掘される「新情報」
UFOとの接近遭遇を「実況中継」
事件から40年が経過しても発掘される「新情報」
1980年12月、イギリスのサフォーク州にある、駐留アメリカ軍の基地であるウッドブリッジ基地とベントフォーターズ基地の間に位置するレンデルシャムの森で、複数のアメリカ兵がUFOを目撃した。
これだけならばよくあるUFO目撃事件と大差はない。
本事件の特異な点は、アメリカ軍の基地副司令官、チャールズ・I・ホルト中佐によってUFO目撃事件の報告書が作成され、公式文書としてイギリス国防省に提出されているところにある。
でっち上げられた文書、偽造された文書が怪しげな出どころから出回ることはよくあることだ。
しかし、このレンデルシャムの森事件に関しては、退役後、ホルト中佐自身が多くのメディアの取材に答え、実際にホルト中佐と複数のメンバーが実際に怪しげな光を目撃したこと、公式文書を作成して提出したことを認めている。
「ホルト中佐の報告書」に記された事件の概要は次のとおりだ。
【第1項】
1980年12月27日(注:後に12月26日の誤記と判明)の未明、ウッドブリッジ基地の警備兵が奇妙な光を目撃した。
航空機が墜落、または墜落しそうなのではないかと考え、調査のために外出許可を出した。その晩は、当直のフライトチーフが対応し、3人の警備隊員に徒歩での調査を許可した。
すると、森の中で奇妙な光る物体を目撃したとの報告がなされた。その物体は、流線型の三角形の外観をしており、金属製だったとの説明を受けた。
幅は2〜3メートル、高さは2メートルほどで、しばらくの間、森の中を明るく照らしていた。物体は上部から赤い光を、底部からは明滅する青い光を発していた。その物体は、空中に停止しているようにも、脚の上に乗っているようにも見えた。
警備隊員が近付くと、その物体は木の間をすり抜けて姿を消した。
この際、近くの農場の動物たちが大騒ぎしている。
そして約1時間後、基地の裏門付近で再度目撃された。
【第2項】
翌日、目撃地点に直径1.5インチ、7インチの3つの窪みがあるのを見つけた。
窪みを調べると、0.1ミリレントゲンの微弱な放射線が検出された。
窪み近辺の木の側面からは、0.5〜0.7ミリレントゲンの中程度の放射線も検出された。
【第3項】
その日の深夜、木々の間から、赤い太陽に似た光が目撃された。
その光は明滅し、飛び回り、やがて5つの白い物体に分裂し、消えていった。
直後、3つの星に似た光が空に浮かんでいることに気がついた。
3つのうち2つの物体は南へ、1つは北へと飛んでいった。いずれも、それぞれ赤、青、緑の光を発し、鋭角に地平線から10度の位置を飛行していた。
8-12の望遠レンズを使って確認したところ、北側を飛行していた物体は楕円形に見えたが、やがて完全な円形になった。
北側の物体は、1時間ほど空中を飛行していた。
南側の物体は2〜3時間にわたって飛行を続け、ときおり地面に向けて光を照射した。
第2項および第3項の事件を、下記の者(ホルト中佐)を含む多数が目撃した。
署名
アメリカ空軍基地副司令官 チャールズ・I・ホルト中佐
警察への通報記録などから、【第1項】の事件が起こったのは、実際には12月25日深夜から26日早朝と考えられている。
ホルト中佐による報告書が提出されたのが1981年1月13日と時間が経過していたことによる記憶違いが原因だろうと想像される。
報告書の内容を整理してみよう。
12月26日の未明、三角形の金属製と思われる物体が、レンデルシャムの森で目撃された。
その物体は地面スレスレを浮いているようにも、脚があり着陸しているようにも見えた。
警備隊員が近付くと、上部から赤い光、底部から青い光を発しながら飛び立ってしまった。
1時間後、基地の裏門付近で同じ物体と考えられる飛行隊が目撃されている。
翌日(昼間か?)、ホルト中佐を含む複数人で目撃地点へと向かった。
昨晩、謎の物体が観察された場所には3つの穴が空いており、微量の放射線が検出された。
近くに生えていた木の側面からも、同様に放射線が検出されている。
12月27日の深夜、ふたたび赤いく光る太陽に似た光が目撃された。
ホルト中佐を含む数人が現場に向かうと、飛行体は3つに分裂し、数時間にわたって辺りを飛び回った。
いくつかの飛行体は、時折地面に向けて光を照射したりもしたという。
この報告書が1983年にアメリカの情報自由法により公開されるやマスコミが嗅ぎつけ、ゴシップ紙が報道したことによって世界中に知られることになる。
すると、シンプルだったはずのUFO目撃事件が複雑な様相を呈し始める。
ベントウォーター基地の元警備兵のラリー・ウォーレンは、「本当は光を見ただけではなく、着陸したUFOからエイリアンが降りてきて、基地司令官のゴードン・ウィリアムス大佐と会見している」と言い出した。
この証言について、ホルト中佐は全面的に否定。
「我々の証言すら疑われる」とウォーレンを非難している。
公式に接近遭遇が認められたことが逆に疑わしいと考える研究者もいる。
彼らは政府による陰謀論を唱えており、一般に広く公開するわけにはいかない「真実」を隠蔽するために、事実とは異なる情報をあえて公開していると考えているようだ。
この「レンデルシャムの森事件」は、イギリスでもっとも有名なUFO事件で、現在でも多くの関心が集まる事件のようだ。
海外の情報サイト「Mysterious Univers」では、2020年5月4日付の記事でレンデルシャムの森事件の最新情報を伝えている。
この記事では、当地では1930年代からマインドコントロールやホログラムといった、新たな武器の開発が行われており、ホルト中佐たちはその新軍事兵器の実験台にされたのではないかとの推論を展開している。
記事の執筆者であるNick Redfernの最新刊は、この推論についてまとめた「The Rendlesham Forest UFO Conspiracy」だというから、どれほど事件が有名で、かついまでも関心を寄せている人が多いかが伺える。
たしかに、なぜこの事件のみ、簡単に公式文書が公開されたのか。
写真や動画など、残っているはずの資料が公開されないのはなぜなのかなど、不可解な点は多くある。
しかし、本稿では客観的な証拠があり、多くの証言も残っているエピソードを物語の中心に据えて展開していきたい。
UFOとの接近遭遇を「実況中継」
レンデルシャムの森事件のユニークな点はまだある。
ホルト中佐による報告書内の「第3項」の調査時の、録音音声が公開されているのだ。
この音声に関しては、ホルト中佐自身が調査時にカセットレコーダーで録音された、実際の音声である旨を認めている。
こちらが実際その音声だ。
ホルト中佐を含めて4〜5人のやり取りが、生々しく記録されている。
光る物体の正体がなんなのか、敵国の兵器かもしれず、場合によっては命の危険もある。そんな状況下において、極度の緊張感を保ちながらも冷静に行動していることがわかる。
ガイガーカウンターを使って、放射線量に気を配っている様子もわかる。
思えば当日の(おそらく)昼間、前日の謎の発光体の現場調査に向かった際にも、放射線の調査を行っている。
当時(現在も?)、このような不可解な事態に遭遇した際には、ガイガーカウンターで放射線量を計測しながら調査を行うのがデフォルトだったのだろうか。
遭遇現場近くの樹木に損壊が見られる様子も記録されている。
木の側面に傷があり、そこから異常な量の樹液が流出、そのサンプルを保存するやり取りが確認できる。
飛行物体は着陸したのだろうか、頭上の木が15〜20フィート(約4.5〜6メートル)の高さで折れているとの会話もある。
ホルト中佐の報告書内にも記載がある、近くの農場で動物が騒いでいる様子も記録されている。牛舎の動物だとの言い方をしているところから見るに、その動物は牛だろうか。
奇妙な飛行物体は、分裂して光を放ちながら飛び回り、消えたり現れたりを繰り返しているようだ。
その都度、ホルト中佐以下の調査隊が翻弄されている様子はスリリングだ。
音声の最終盤、午前2時44分から午前4時にかけて、ホルト中佐が飛行物体の行動を実況中継している。
2:44
現在、農家の奥にいる。(中略)ここは海岸まで見渡せる。物体は地平線上にあり、少し動いては時々点滅している。赤い色をしている。
3:05
奇妙な、ストロボのような閃光が見える。ほとんど散発的ではあるが、間違いなく何かがある。
およそ…真北の地平線10度くらいのところを、2つの奇妙な物体が、半月のような形をして、色のついたライトをつけて踊っている。半月状の物体は今、1〜2分の間、日食か何かがあったかのように、円形なった。
3:15
真南の約10度ほどのあたりに物体が…左側にもある。
地平線から10度離れており 北側の物体が動いている。1つは我々から離れていった。
急速に移動している。右側の一機も遠ざかっている。
ああ 両方とも北に向かっている。
おい、南から来たぞ、今こちらに向かって来ている。
クソッ!
地上に照射しているビームのようなものを観察している。
これは非現実的だな。
4:00
ウッドブリッジ基地の上空で、1つの物体がホバリングしている。
地平線から5~10度の位置だ。
不規則な動きをしており、先ほどと同じような光を放っている。
これほどスリリングな実況中継はなかなかない。
まるでその場で一緒に見ているかのようだ。
事件から35年が経過した2015年7月11日、チャールズ・I・ホルト氏がウッドブリッジで行った講演の動画がYouTubeで一部公開されている。
76歳(当時)になったホルト氏は、「当時、レーダーにはなにも補足されていないと発表されたが、実際にはイギリス軍のレーダーによって追跡できていた」と、新たな情報を提供している。
これほど多くの資料が残され、証言もされ、公式文書が公開されていながらもなお、レンデルシャムの森事件の謎は完全には解明できていない。